
 値段の割には飯も美味くて満足だったけど、部屋が古くて悪く言えばボロだった。 
 ま、温泉が目当てだったから部屋はどうでも良かった。 
 寝る前にもう一度風呂に浸かろうと浴場に向かう廊下を歩いていると、向こうから浴衣姿の男が歩いてきた。 
 俺以外にもこんなオフシーズンの平日に泊まる客がいるんだなと思いながら何気無く会釈しながらすれ違うと、浴衣の男が立ち止まった気配がした。 
 何か話でもするのかと思ってこちらも立ち止まって振り返ると、 
 廊下の床板の隙間に吸い込まれて行く影だけが見えた。 
これも石川県の小松市という所で、あるデパートに隣接して立つ立体駐車場に勤務する警備員から聞いた話。
 ある日の昼、その駐車場の裏で中年の女の死体が発見された。 
 どうやら車で駐車場に来て屋上の8階から飛び降り自殺したというのが監視カメラの映像から分かった。 
その自殺者の乗ってきた軽自動車はその日のうちに親族か関係者らしき人が引き取りに来たが、見慣れないお札の様なステッカーが貼ってあったのが妙に印象に残った。
 翌朝、その警備員が勤務先の駐車場に向かう途中、交通事故現場に遭遇した。 
 どうやら路肩に止めてあった大型トラックにノーブレーキで軽自動車が突っ込んだようだった。 
 軽自動車は完全に原型をとどめていない程大破していて運転手は即死だというのが素人でも一目で分かった。 
ただその車は、あの飛び降り自殺した女が乗っていた軽自動車と同じステッカーが貼られていた。間違いなく同じ軽自動車だった。
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Source: 不思議.net